唯識思想は仏教でありながら、科学と哲学と宗教の三面を兼ね備えた、世界に通用する普遍的な思想です。不可思議ともいえる心を深層から観察・分析し、その秘密を解き明かした唯識。それは、混迷といわれる今、迷いから悟りへ、混迷から平安へと導いてくれる思想です。

唯だ心だけが存在する・・・このような思想すなわち「唯識」という思想が仏教にあることをこれまで知っている人はあまり多くおられなかったと思います。しかしこの唯識思想はあの小説『西遊記』の主人公としても有名な七世紀の中国の僧・玄奘三蔵が十七年間もの長きにわたる艱難辛苦の努力のすえ、インドから中国に伝えた思想であります。

もしも玄奘三蔵のあの命をかけた求法の旅がなければ、その後の中国仏教、そして日本仏教もあり得なかったといっても過言ではありません。それほどに重要な思想が二十一世紀を迎えた現代、再び脚光を浴びはじめてきました。それはこの思想がヨーガ(瑜伽)という実践を通して一切の存在を心の中に還元し、心の中に住して「一体なにか」と静かに観察することによって心のありようを変革し、迷いから悟りに至ろうとする実践的な思想であり、かつあまりに「物」に拘泥して「心」を忘却した現代人に「いかに生きるべきか」を教授する思想であるからです。たしかに「唯識」という教理は宗教性だけではなく、科学性と哲学性をも兼ねそなえた、まさに現代に相応しい仏教思想であると私は強く確信しています。